都市別指標比較による日立市の位置

橋本 治

鉱工業都市として発展してきた日立市の、都市としての特性、位置を最新データの単純比較により明らかにしようとするものである。出典は『地域経済総覧』(一九九一年、東洋経済新報社)によった。比較する都市は工業系の愛知県豊田市、住宅系の兵庫県芦屋市県庁所在地として中枢管理機能を有する水戸市の三都市を選んでみた。

一 基本特性

国勢調査人口をみると、豊田市は三〇万八〇〇〇人(八五年)であり、八〇年からの増減率は九%であった。以下、各都市の八五年人口と八〇年との増減率を列記すると、芦屋市が八万七〇〇〇人で六%の増、水戸市は二二万八○○○人で六%の増、日立市は二〇万六〇〇〇人で、○・七%の微増にとどまっている。

年齢階級別人口の構成比を比較すると、豊田市は一四歳以下が四三%、六五歳以上が五%と若年層にシフトした構成になっている。芦屋市は二四歳以下が三四%と低く、六五歳以上は一〇%と高くなっている。日立市は二四歳以下が三七%、六五歳以上が九%と、芦屋市の構成に近く、高齢化社会へ移行していることがわかる。

二 財政

住民税は納税者によって個人市民税と法人市民税にわけられる。この構成比をみると、同じ工業都市でも日立市は個人が六一%、法人が三九%となっているのに対し、トヨタ自動車を主柱産業とする豊田市は個人が三八%、法人が六二%と逆転している。芦屋市は個人が九四%、法人が六%と個人市民税の税率が高くなっている。

次に歳出面をみると、歳出決算額の八三–八八年の増加率は芦屋市が三八%と最も高く、ついで豊田市の三七%、水戸市が二七%、日立市が二六%となっている。これを一人当たりに換算すると、芦屋市が三三万一〇〇〇円、豊田市が二九万一〇〇〇円、日立市は二二万六〇〇〇円となっている。

都市成長力の指標ともなる課税対象所得額の増加率を八三–八八年で比較すると、豊田市が三五%、芦屋市が一三%、水戸市が二九%、日立市は二三%となっている。八八年の課税対象所得額を一人当たりの所得に換算すると、日立市は一一〇万一〇〇〇円で、豊田市は日立市の一・三倍、芦屋市は約二倍の所得をカウントしている。

三 工業

八八年の従業者数を八三–八八年の増加率でみると、豊田市は六%増、水戸市は五%増、日立市はマイナス二%であった。工業製品出荷額(八八年)をみると、日立市は一兆三五三三億円、豊田市は日立市の約六倍にあたる六兆七四四〇億円であった。八三年からの増加率では、豊田市が三〇%、日立市は二四%と堅調に伸びている。

四 卸売・小売業

八五年・八八年との比較で卸売業商店数、同従業員数の推移をみると、他の都市が堅調に伸びを示しているのに対し、日立市は両数値とも減少している。販売額の八二–八八年の増加率は豊田市が最も高く一一八%、ついで芦屋市の八七%、水戸市は三九%、日立市は一〇%にとどまっている。豊田市が卸売業でも販売額の水準は低いものの着実に力をつけてきている。

小売業に関して、日立市は八五–八八年との比較でみると、従業員数では増加傾向にあるものの、商店数では減少となっている。販売額を人口一人当たりに換算すると水戸市が一二六万四〇〇〇円、芦屋市が八五万七〇〇〇円、日立市が七七万五〇〇〇円、豊田市が七五万四〇〇〇円となっている。

五 住宅

住宅の所有関係で持ち家比率(八八年)をみると、最も高いのは豊田市で六五%、ついで日立市の五七%、芦屋市の五三%、水戸市の五二%となっている。工業都市において住民の定着率が比較的高い結果となっているのが特徴的にでている。企業の持ち家政策が一つの誘因と考えられる。

次に八九年の各都市の着工住宅戸数をみると、豊田市が四六〇〇戸、八四年との比較では一〇三%の増加になっている。ついで水戸市の四二二一戸で三六%の伸び、芦屋市は九九九戸で三一%、日立市は一六〇六戸で一二%の伸びにとどまっている。

同じ建築統計で住宅の質の面で着工住宅一戸当たりの床面積を比較してみると、芦屋市が一三二平米と最も広く、ついで日立市の九一平米、豊田市の八七平米、水戸市の七〇平米となっている。 住宅ストックの居住水準を住宅統計調査(八八年でみると、建設省の最低居住水準以上の比率は、豊田市が九二%、芦屋市が九〇%、日立市が八八%、水戸市が八七%であった。衛生面での指標となる水洗便所比率では芦屋市が九五%、日立市が七七%、豊田市が七四%、水戸市が六一%となっている。

また、駅までの距離が二キロメートル以内にある世帯の割合をみると、芦屋市が九八%と居住条件がよく、豊田市と日立市は五七%、水戸市は一三%となっている。

近年日立市においても、水準の高い住宅が建設されているものの、芦屋市と比較すると居住水準、生活の便利度の指標ではまだ隔たりがある。

『日立の現代史の会通信』第29号 1991.5.11