宮田川に生息したカサギについて

浅野 長雄

八月二十一日環境保全茨城県民会議の現地調査に参加させていたき、その後、事務局より環境保全県民運動資料No.2というパンフレットをいただいた。その中に滑川清雅氏が「宮田川は明治三十五年頃までカサギという魚がおりまして、別名、カサギ川と言われておりました。この宮田川でカサギを採つたり、水泳をしたということを親から子供の頃聞かされたものでした。けれども明治三十九年頃から真黒い鉱毒水が流され…」と書かれてあり、日立鉱業所が選鉱汚濁水を流さなかつた明治三十五年頃はカサギという魚がすんでいて宮田川がカサギ川と呼ばれたということであるから、かなりカサギが生息したことと思われる。

カサギは勿論宮田川付近の方言で、今までこの方言が存在することがわかり、まことに興味深い。恐らく現在では死んでしまつた方言であろう。福島県相馬地方でもカサギという魚の方言がある。これはハゼ科のシロウオのことである。宮田川のカサギも標準和名はハゼ科のシロウオである。シロウオのことを水戸方面ではヒウオと呼んでいる。河水の奇麗な頃は本県の河川にすべて生息したものであろう。そのうちで、宮田川はカサギが多く生息したためにカサギ川と言つたのであろう。

シロウオは素魚と書きハゼ科の魚で体長四〇〜六〇ミリメートルの細長い円筒状の小魚で、透明で数個の黒点が腹側に並んでおり、うろこはない。死ぬと白くなり味が落ちる。北海道、本州、四国、九州と朝鮮南部の沿岸、内湾内にすみ、産卵期に川へさかのぼる。産卵期は二〜四月頃で、石の下面に産卵する。産卵数は三〇〇〜七〇〇と少ない。ふ化すると海に下り沿岸の藻の生えた波のおだやかなところにすんでいる。

透明な生きたものをそのまま二杯酢で食べると最高の味と言われる。玉子とじや酢のものにしても美味である。福岡県の室見川のシロウオ料理は全国でも有名である。

シロウオはよくシラウオと間違えられるが、シラウオはシラウオ科の魚であり、シロウオはハゼ科の魚である。

恐らく明治の頃は宮田川は水のきれいな川で春先にたくさんのシロウオが川へさかのぼり、沿岸の人々がこれを漁獲して食用にしたので、カサギ川と言つたものであろう。

茨城県自然保護協議会『終りなき闘い』1974年8月13日


[註]本記事は一般には入手が困難です。茨城県立図書館にも入っていないようですので、採録させていただきました。浅野さん、ご了承ください。