鉱業条例 条文 1892年施行

1890年(明治23)に公布された鉱業条例の条文を紹介する。

鉱業に関する法律制定経過

1873年(明治6)7月20日、日本坑法制定、同年9月1日施行 こちら 日本坑法
 1890年(明治23)9月26日、鉱業条例公布。92年施行。日本坑法廃止
 1905年(明治38)3月7日、鉱業法公布。同年7月1日施行。鉱業条例廃止
   こちら 旧鉱業法
 1950年(昭和25)、新鉱業法制定。旧鉱業法廃止

テクスト

テキスト化にあたって

内容細目


法律第八十七号
 鉱業条例

  第一章 総則

  1. 第一条 鉱業とは鉱物の試掘採掘及之に附属する事業を謂ふ
  2. 第二条 鉱物の未た採掘せさるもは国の所有とする
    此の条例に於て鉱物とは金鉱(砂金を除く)銀鉱、銅鉱、錫鉱(砂錫を除く)安質母尼鉱、水銀鉱、亜鉛鉱、鉄鉱(砂鉄を除く)硫化鉄鉱、満奄鉱、砒鉱、黒鉛、石炭、石油及硫黄を謂ふ
  3. 第三条 帝国臣民に非されは鉱業人となり又は鉱業に関する組合員又は会社の株主となることを得す
    鉱業人未成年瘋癲白痴又は瘖瘂なるときは後見人を立つへし
  4. 第四条 農商務省鉱山局及鉱山監督署の官吏は在職中鉱業人となり又は鉱業に関する組合人又は会社の株主若は役員となることを得す
  5. 第五条 此条例に依り鉱業特許取消の處分を受けたる坑業人は同鉱区に月一箇年間採掘の出願を為すことを得す
  6. 第六条 二人以上共同して鉱業を為すときは総代一名を選定し豫め所轄鉱山監督署に届出つへし
    総代は鉱業上に関し政府に対して共同鉱業人を代表するものとす
  7. 第七条 共同鉱業人の変更、採掘権の賣買、譲與、書入及廃業届等には総代の外少くも共同鉱業人過半数の連署を要す

  第二章 試掘及採掘

  1. 第八条 試堀をなさんと欲する者は其の願書に試掘地の図面を添へ所轄鉱山監督署長に差出し其の認可を受くへし
  2. 第九条 試掘は認可の日より一箇年を限とす
    試掘人前項の期限内に於て其の事業を竣へ難き事実あるときは所轄鉱山監督署長に延期を出願することを得
    所轄鉱山監督署長は其の事実を調査し已むを得さるものと認むるときは一箇年以内の延期を認可することを得
  3. 第十条 試掘に依り採取したる鉱物は所轄鉱山監督署長の認可を得て之を販賣することを得
  4. 第十一条 前条により鉱物を販賣したるときは三十日以内に其の販賣代價百分の一を所轄鉱山監督署に納むへし
  5. 第十二条 採掘の特許を得んと欲する者は採掘願書に鉱区図を添へ農商務大臣宛にて所轄鉱山監督署に差出すへし
    採掘願書及鉱区図を同時に差出し難きときは願書のみを差出し置き鉱区図は願書の日附より五十日以内に之を差出すことを得此の期限内に差出さゝるときは其の出願を無効とす
  6. 第十三条 採掘を出願する者は出願地に其の採掘せんとする鉱物の存在することを證明すへし
  7. 第十四 鉱山監督署長は鉱物の存在を認定する為に吏員の実地臨検を必要と認むるときは採掘出願人をして出張吏員の為に制規の旅費日当を前納せしむへし
    採掘出願人前項旅費日当納付の通知を受け通知書到達の日より十四日以内に之を納めさるときは其の出願を無効とす
  8. 第十五条 鉱山監督署に於ては試掘及採掘出願登録簿を備へ置き出願日時の先後に依り之を登録す
  9. 第十六条 試掘又は採掘の出願同一の地に付二人以上あるときは出願日時の先後に依り其の許否を定む
    出願の日時同一なるときは鉱山監督署長は其の旨を各出願人に通知すへし各出願人は通知書の日附より六十日以内に協議を遂け出願人を定むへし 若し協議調はさるときは其の出願は無効とす
    出願の日時同一にして試掘と採掘とに係る時は先つ採掘の出願に付其許否を定む
  10. 第十七条 農商務大臣採掘の特許を與ふへきものと認めたるときは鉱業特許證を下付すへし
  11. 第十八条 試掘若は採掘の事業公益を害すと認むるときは試掘に就ては所轄鉱山監督署長採掘に就ては農商務大臣其の出願を許可せす
  12. 第十九条 試掘若は採掘の事業公益に害あるときは試掘に就ては所轄鉱山監督署長採掘に就ては農商務大臣既に與へたる認可若は特許を取消すことを得  
    鉱業人前項取消の處分に不服あるときは其の達を受けたる日より三十日以内に行政裁判所に出訴することを得但損害の賠償を要求することを得す
  13. 第二十条 特許を得たる鉱物の採掘権は賣買、譲與又は書入を為すことを得  
    採掘権を賣買、譲與するときは雙方連署し所轄鉱山監督署を経農商務大臣に出願し鉱業特許證の書換を受くへし此の手續に依らさる賣買、譲與は法律上其の効なきものとす  
    採掘権の書入は雙方連署し所轄鉱山監督署の登録を受くへし其の登録を受けさるものは法律上其の効なきものとす
  14. 第二十一条 他人の試掘の年限中は其の試掘地内に於て同一の鉱物に付採掘の出願を為すことを得す
  15. 第二十二条 他人の認可を得たる試掘地内に於て其の試掘人の未た認可を得さる鉱物の試掘又は採掘を出願せんと欲する者は試掘人の承諾を経へし
    試掘人自ら試掘又は採掘を出願せんと欲するか若は其の認可を得たる鉱物の試掘に妨害あるときの外は試掘人は前項の承諾を拒むことを得す
  16. 第二十三条 他人所属の鉱区内に於て其の鉱業人の未た試掘の認可又は採掘の特許を得さる鉱物に付試掘若は採掘を出願せんと欲する者は鉱業人の承諾を経へし
    鉱業人自ら試掘又は採掘を出願せんと欲するか若は其の試掘又は採掘の為に鉱業に妨害あるときの外は鉱業人は前項の承諾を拒むことを得す
  17. 第二十四条 宮城、離宮、神宮、皇陵、陸海軍所轄城堡、軍港、要港、火薬製造所、火薬庫及弾薬庫の周囲三百間以内の場所は試掘又は採掘若は鉱業上使用することを得す但軍港、要港は其の鎮守府司令長官の許可を得たる場合に於ては此の限りにあらす
  18. 第二十五条 鉄道、馬車鉄道、公道、河湖、堤防、沼池、社寺、墓地、公園地及建物より地表地下とも其周囲三十間以内の場所に於ては所轄官庁の若は所有者の承諾を経るにあらされは試掘又は採掘を為すことを得す但危険の虞なきものは其の承諾を拒むことを得す
  19. 第二十六条 鉱業人は毎年の鉱業施業案を調製し其の前年十月三十日限其の初年に係るものは採掘特許の日より三箇月以内に所轄鉱山監督署長に差出し認可を受くへし
    前項の施業案にして坑内の保安に害あり又は其の鉱区に相当する鉱業を為さゝるものと認めたるときは所轄鉱山監督署長は其の理由を鉱業人に示し期限を定め之を改正せしむへし
  20. 第二十七条 鉱業人は所轄監督署長の認可を受けたる鉱業施業案に依るにあらされは採掘を為すことを得す
  21. 第二十八条 鉱業人鉱業施業案又は其の改正案を期限内に差出さゝるときは農商務大臣は其の採掘の特許を取消すことを得
  22. 第⼆⼗九条 鉱業人一箇年以上休業し又は採掘の特許を得たる日より一箇年以内に鉱業に著手せさるときは農商務大臣は其の特許を取消すことを得
  23. 第三十条 前二条の場合にして其の自己の過失に由らさるものは特許取消の達を受けたる日より十四日以内に其の理由を農商務大臣に申立て再願を為すことを得若し農商務大臣に於て之を拒むときは其の達を受けたる日より三十日以内に行政裁判所に出訴することを得
  24. 第三十一条 鉱業人は坑内実測図二葉を調製し一葉は所轄鉱山監督署に差出し一葉は鉱業事務所に備へ置くへし  
    前項坑内実測図は事業の進歩に従ひ六箇月毎に追補すへし  
    鉱業人若し他人の所属に係る隣接鉱区の坑内実測図に付證明を必要と認むるときは之を所轄鉱山監督署長に請求することを得  
    所轄鉱山監督署長に於て右證明の為に吏員の実地臨検を必要と認むるときは鉱業人をして出張吏員の為に制規の旅費日当を前納せしむへし
  25. 第三十二条 鉱業人鉱業特許證を毀損若は亡失したるときは事由を具し所轄鉱山監督署を経其の再下付を農商務大臣に出願すへし
  26. 第三十三条 詐偽又は錯誤に由り試掘の認可を得たることを発見したるときは所轄鉱山監督署長は其の認可を取消すへし 若し其の認可につき利害の関係を有する者に於て之を発見したるときは其の関係を有する者は認可の日より三箇月以内に試掘認可の取消を所轄鉱山監督署長に訴願することを得
    前項所轄鉱山監督署長の判定に不服ある者は其の判定の日より三十日以内に行政裁判所に出訴することを得
  27. 第三十四条 詐偽又は錯誤に由り採掘の特許を得たることを発見したるときは農商務大臣は其の特許を取消すへし若し其の特許に付き利害の関係を有する者に於て之を発見したるときは其の関係を有する者は特許の日より三十日以内に採掘特許の取消を農商務大臣に訴願することを得
    前項農商務大臣の裁定に不服ある者は其の裁定を受けたる日より三十日以内に行政裁判所に出訴することを得
  28. 第三十五条 第二十二条第二項及第二十三条第二項の場合に於て理由なくして承諾を拒みたるときは関係人又第二十五条但書の場合に於て危険の虞なくして承諾を拒みたるときは鉱業人は所轄鉱山監督署長の判定を請求することを得
  29. 第三十六条 前条の判定に不服ある者は其の判定を受けたる日より三十日以内に農商務大臣の裁定を請求することを得
  30. 第三十七条 鉱業人廃業したるときは其の旨を所轄鉱山監督署に届出て鉱業特許證を返納すへし
  31. 第三十八条 第十九条第二十八条第二十九条第三十四条第四十三条及第七十六条に依り農商務大臣に於て採掘の特許を取消し又は第三十七条により廃業の届け出を為したる場合に於ては其の特許を得たる鉱物の採掘権に対し抵当権を有する債主は其の抵当権を失ふものとす但第十九条及第三十四条の場合を除くの外債主に於て六十日以内に其の鉱区の採掘を願出るときは出願の先後に拘はらす特許を與ふへし
  32. 第三十九条 鉱業人は毎年一月前年に採取したる鉱物の量数生産物、其の販賣高、販賣代價、行業日数及工数を所轄鉱山監督署に届出つへし
  33. 第四十条 鉱業人は農商務大臣定むる所の書式に依り帳簿を調製し製産物の量数及販賣代價等を記載すへし

  第三章 鉱区

  1. 第四十一条 鉱区とは鉱物の採掘を為す土地の区域を謂ふ
    鉱区の境界は直線を以て之を定め地表境界線の直下を限とす其の一鉱区の面積は石炭は一万坪以上其の他の鉱物は三千坪以上とし共に六十万坪を超ゆることを得す
  2. 第四十二条 出願に係る鉱区の位置形状、鉱床の位置形状と相違し鉱利を損すへきものと認めたるときは所轄鉱山監督署長は之を出願人に通知し訂正せしむへし
    出願人前項の通知を受け其の通知書到達の日より三十日以内に訂正して差出さゝるときは其の出願を無効とす
  3. 第四十三条 特許を得たる鉱区の位置形状、鉱床の位置形状と相違し鉱利を損すへきものと認めたるときは所轄鉱山監督署長は農商務大臣の認可を経六十日以内の期限を定め訂正せしむへし 若し訂正せさるときは農商務大臣は既に與へたる特許を取消すことを得
    鉱業人は前項特許取消の處分に不服あるときは其の達を受けたる日より三十日以内に行政裁判所に出訴することを得
  4. 第四十四条 鉱業人鉱床の形状に由り鉱区の境界若は位置の訂正を要するときは其の願書に理由書、訂正鉱区図及鉱業特許證を添へ農商務大臣宛にて所轄鉱山監督署に差出すへし
    農商務大臣に於て訂正を必要と認めたるときは更に鉱業特許證を下付す
  5. 第四十五条 鉱業人鉱区の訂正を出願したる場合に於て所轄鉱山監督署長吏員の実地臨検を必要と認むるときは鉱業人をして出張吏員の為に制規の旅費日当を前納せしむへし
    鉱業人前項旅費日当納付の通知を受け其の通知書到達の日より十四日以内に之を納めさるときは其の出願を無効とす
  6. 第四十六条 鉱区を合併し又は分割せんと欲する者は合併又は分割鉱区図及鉱業特許證を添へ所轄鉱山監督署を経て農商務大臣に出願すへし其の採掘権を抵当に取りたる債主あるときは其の承諾書を添ふへし
    鉱区の分割は第四十一条の制限を超ゆることを得す

  第四章 土地使用

  1. 第四十七条 試掘又は採掘を出願する為他人の土地を測量することを必要とするときは所轄鉱山監督署の認可を受くへし此場合に於ては其の土地の所有者又は関係人は之を拒むことを得す 若し測量の為に損害を生したるときは其の測量を請求したる者に於て之を賠償すへし
    測量請求者他人の土地に入るときは豫め其の土地所有者に通知し且測量認可證を携帯すへし
  2. 第四十八条 左の場合に於て鉱業上他人の土地を使用することを必要とし鉱業人其の貸渡を請求したるときは其の土地の所有者又は関係人は之を拒むことを得す
    一 坑口を開穿する為
    一 鉱物及土石の堆積場を設置する為
    一 坑道、道路、鉄道、馬車鉄道、運河、溝渠及溜池を開設する為
    一 鉱業上必要の製錬場及建物を建設する為
  3. 第四十九条 左の場合に於ては土地所有者又は関係人は土地貸渡の請求を拒むことを得
    一 貸渡し請求の土地第二十五条に記載したる場所に係るとき
    一 土地借受人に於て第五十条の保證金を差出さゝるとき
  4. 第五十条 土地借受人は貸渡を受けたる土地に対し其の土地貸渡人に相当の借地料を支払ふへし
    土地貸渡人は借地料の保證金として土地借受人に豫め土地臺帳に記載したる地價以内の金額を差出さしむることを得
    其の質入となりたる土地に対する借地料及保證金は質取主に於て之を受領するものとす
    土地使用に依り所有者又は関係人に損害を與ふるときは鉱業人は之に対し相当の賠償を為すへし
    土地借受人土地の使用を終り其の使用中の借地料を完納したるときは土地貸渡人又は質取主は土地と引換に保證金を返還すへし
  5. 第五十一条 土地借受人貸渡を受けたる土地の使用を終りたるときは土地貸渡人の要求に応し其の土地を原形に復し返還すへし 若し原形に復し難きときは土地借受人に於て其の損害を賠償すへし
  6. 第五十二条 土地借受人借地料の支払を延滞したるときは土地貸渡人は其の延滞借地料に相当する金額を保證金中より差引き土地を取戻すことを得
    前項土地を取戻すに当り地上に建物等あるときは六十日以上の期限を定めて土地借受人に其の取除を請求すへし 若し土地借受人の所在不分明なるときは其の地方の新聞紙を以て其の旨を公告すへし
    土地借受人右期限内に取除をなさゝるときは其の建物等は土地貸渡人の所有に帰すへし
  7. 第五十三条 鉱業人の請求に依り土地を分割して賣渡し又は貸渡したるか為残地の利用を害するときは鉱業人に対し其の土地全部の買取若は借受を請求することを得此の場合に於て鉱業人は之を拒むことを得す
  8. 第五十四条 鉱業人に於て貸渡を受けたる土地を三箇年以上使用する目的あるか又は三箇年以上之を使用するときは土地貸渡人は鉱業人に其の土地の買取を請求することを得此の場合に於て鉱業人は其の買取を拒むことを得す
  9. 第五十五条 土地の所有者及関係人と測量請求人又は鉱業人との間に於て土地貸渡、借地料、保證金、損害賠償金又は土地賣買代價に付協議調はさるときは所轄鉱山監督署長に其の判定を請求することを得
    所轄鉱山監督署長の判定に不服あるときは其の判定の達を受けたる日より三十日以内に土地貸渡に就ては農商務大臣に其の裁定を請求し借地料、保證金、損害賠償金若は土地賣買代金に就ては裁判所に出訴することを得
    前項農商務大臣の裁定に対しては他に出訴することを得す
  10. 第五十六条 所轄鉱山監督署長の判定又は農商務大臣の裁定請求の為に要する費用は民事訴訟入費の例に依り負擔すへきものとす
  11. 第五十七条 鉱業人は土地所有者又は関係人に於て所轄鉱山監督署長の判定したる借地料、保證金、損害賠償金又は賣買代金に不服あるも其の金額を土地所有者又は関係人に渡し若し之を受けさるときは其の金額を供託所に預け置き土地を使用することを得

  第五章 鉱業警察

  1. 第五十八条 鉱業に関する警察事務にして左に掲くるものは農商務大臣之を監督し鉱山監督署長之を行ふ
    一 坑内及鉱業に関する建築物の保安
    一 鉱夫の生命及衛生上の保護
    一 地表の安全及公益の保護
  2. 第五十九条 鉱業上に危険の虞あり又は公益を害すと認むるときは所轄鉱山監督署長は鉱業人に其の豫防を命令し又は鉱業を停止すへし
    所轄鉱山監督署長に於て鉱業を停止せんとするときは其の猶豫し難き場合を除くの外は農商務大臣の認可を経へし
  3. 第六十条 前条第一項の場合に於て鉱業人直に其の豫防に著手せさるときは所轄鉱山監督署長は鉱業人の使用する役員及鉱夫を指揮し其の豫防を執行すへし
    此の場合に於て鉱業人は其の使用する役員及鉱夫を豫防の用に供し且一切の費用を負擔するの義務あるものとす
  4. 第六十一条 第五十九条に依り鉱業を停止したる後其の事故止みたるときは所轄鉱山監督署長は直に鉱業の停止を解きその旨を農商務大臣に具申すへし
  5. 第六十二条 農商務大臣に於て此の条例に依り採掘の特許を取消したるとき又は鉱業人廃業したるときは所轄鉱山監督署長は六十日以上の期限を定め鉱業の為建設したる家屋及其の他の建物等を除去せしむへし 若し右期限内に除去せさるときは其の建物等は土地所有者の所有に帰す但所轄鉱山監督署長に於て坑内保安の為に必要と認むる坑内及坑口の構造物は之を除去することを得す
    前項の場合に於て鉱業人の所在不分明なるときは第五十二条第二項の手續に依るへし
  6. 第六十三条 農商務大臣は此の条例の範囲内に於て省令を以て鉱業警察規則を定むることを得

  第六章 鉱夫

  1. 第六十四条 鉱夫とは鉱物の採掘及之に附属する業務に従事する男女の職工を謂ふ
    鉱業人は其の使役する坑夫の使役規則を定め所轄鉱山監督署の認可を受くへし
  2. 第六十五条 鉱業人と鉱夫との間に特別の約定なき場合に於て双方とも十四日以前に通知するときは雇役の解約をなすことを得
  3. 第六十六条 左の場合に於ては鉱業人は何時たりとも鉱夫を解雇することを得
    一 軽罪以上の刑に處せられたるか又は不行状の所為あるか若は命令を遵守せさるとき
    一 鉱業人又は其の使用する役員に対し粗暴の所為ありたるとき
    一 身軆虚弱にして業務に堪へさるとき
    一 鉱業を禁止せられ又は廃業したるとき
  4. 第六十七条 左の場合に於ては鉱夫は何時たりとも其の雇役を罷むることを得
    一 身体虚弱にして業務に堪えさるとき
    一 鉱業人又は其の使用する役員に於て虐待したるとき
    一 約定の賃銭又は報酬を給與せさるとき
  5. 第六十八条 鉱業人又は其の代理人は解雇する鉱夫の請求に依り従来の業務年限、本人の技能、賃銭及解雇の事由を記載したる證明書を與ふへし
    鉱業人證明書を與ふることを拒むか又は鉱夫に於て證明書中不当と認むる事項あるときは所轄鉱山監督署員若は警察官に申告することを得
  6. 第六十九条 鉱業人は鉱夫の賃銭を通貨似て支払ふへし鉱夫の請求あるにあらされは物品を以て支払を為すことを得す
  7. 第七十条 鉱業人は鉱夫名簿を備へ置き氏名、年齢、本籍、職業、雇入及解雇の年月日を記入すへし
  8. 第七十一条 農商務大臣は左に記載する制限内に於て省令を以て鉱夫工役規則を定むることを得
    一 日十二時間以上の就業時間を制限すること
    一 女工の工役の種類を制限すること
    一 十四年以下の男女職工の就業時間及工役の種類を制限すること
  9. 第七十二条 鉱業人は左の場合に於て其の雇入鉱夫を救恤すへし其の救恤規則は所轄鉱山監督署の認可を受くへし
    一 鉱夫自己の過失に非すして就業中負傷したる場合に於て診察費及療養費を補給すること
    一 前項の場合に於て鉱夫に療養休業中相当の日当を支給すること
    一 前項の負傷に由り鉱夫の死亡したるとき埋葬料を補給し及遺族に手当を支給すること
    一 前項の負傷に由り廃疾となりたる鉱夫に期限を定め補助金を支給すること

  第七章 鉱業税及鉱区税

  1. 第七十三条 鉱業人は鉱業税として鉱業製産物の價格百分の一鉱区税として鉱区一千坪毎に一箇年金三十銭を納むへし但一千坪未満の端数に対する鉱区税は之を免除す鉄鉱を採掘する者には鉱業税を課せす
  2. 第七十四条 前条鉱業製産物の價格は主要なる市場の平均相場を標準とし農商務大臣の告示する所に依る但市場の相場なきものは其の販賣代價による
  3. 第七十五条 鉱業税は前年分を毎年三月三十一日限に又廃業の年に係るものは廃業の日より六十日以内に之を納むへし
    鉱区税は一箇年分を其の前年十二月十五日限に又初年に係るものは月割を以て採掘出願特許の日より六十日以内に之を納むへし其の廃業の年に係るものは之を返付せす
  4. 第七十六条 鉱業人納税期限内に鉱業税及鉱区税を納めさるときは農商務大臣は採掘の特許を取消すことを得其の取消に不服あるときは其の達を受けたる日より三十日以内に行政裁判所に出訴することを得

  第八章 罰則

  1. 第七十七条 第二十四条第二十五条を犯したる者は二十円以上二百円以下の罰金に處す
  2. 第七十八条 特許を得すして採掘を為したる者又は詐偽に由りて特許を得たる者は十五円以上百五十円以下の罰金に處す
  3. 第七十九条 認可を得すして試掘を為したる者又は詐偽に因りて認可を得たる者又は認可の期限を過き尚ほ試掘を為したる者は十円以上百円以下の罰金に處す
  4. 第八十条 第二十七条を犯したる者及第五十九条の豫防に著手せさる者又は第六十二条但書の規定を犯したる者は十五円以上百五十円以下の罰金に處す
    第三十一条第一項及第二項を犯したる者は五円以上五十円以下の罰金に處す
  5. 第八十一条 第十条を犯したる者は其の賣得金の半額に相当する罰金に處す
  6. 第八十二条 第十一条の販賣代價を隠匿したる者は其の隠匿したる金額の半額に相当する罰金に處す
  7. 第八十三条 第三十九条に依り届出つへき事項を詐て逋税したる者は其の逋税金額の三倍に相当する罰金に処す其の逋税に関せさる事項に係るものは二円以上二十円以下の罰金に處す
  8. 第八十四条 第四十条の帳簿を調製せす若は記載を怠り若は詐て記載したる者は二円以上二十円以下の罰金に處す
  9. 第八十五条 第六十四条第二項第六十九条及第七十二条を犯したる者は十円以上百円以下の罰金に處す
  10. 第八十六条 第六条第三十七条第六十八条及第七十条に違背したる者は一円以上一円九十五銭以下の科料に處す
  11. 第八十七条 第八十一条第八十二条及第八十三条の場合に於て自首したる者は其の納付すへき金額を追徴し其の罪を問はす
  12. 第八十八条 此の条例を犯したる者には刑法の減軽再犯加重及数罪倶発の例を用ひす
    鉱業人未成年瘋癲白痴又は瘖瘂にして此の罰則を犯したるときは其の後見人を處罰す
  第九章 附則
  1. 第八十九条 此の条例実施以前に許可を得たる試掘人又は借区人は其の許可を得たる年限中試掘又は鉱業を為すことを得
  2. 第九十条 此の条例実施以前に借区人の許可を得借区年限満期後尚ほ引續き鉱業を為さんとする者は借区満期以前に此の条例に依り出願すへし
  3. 第九十一条 此の条例の施行に関する細則は農商務大臣之を定む
  4. 第九十二条 此の条例は明治二十五年六月一日より施行す明治六年太政官第二百五十九号布告日本坑法は同日限此を廃止す