東敏雄著 村落研究を語る会 内容細目

「村落研究を語る会」は3冊のシリーズ名である。

3冊それぞれの書名は 『経済学から家と村を語る』 『経済学から「家と村の教育問題」を語る』 『経済学から「戦時下の村」を語る』 である。

著者は第1冊目の冒頭「あらまし」でこの「語る」について次のように説明する。

いわゆる論文からみれば余分なことや、普段は文字にはしない他の専門のことなども書いている。「語り」は裏も述べなければ成り立たない。

3冊ともにフィールドは牛久市域の村々である。1990年代に著者が編纂代表となり、かつ執筆者ともなった牛久市史編纂事業にかかわったことで得たものを、おそらくは通史には収録できなかった専門的、論文的な内容を経済学の立場から論述したものである。

追記:東先生は本年(2022年)鬼籍に入られた。ご冥福を祈り申しあげます。

経済学から家と村を語る

あらまし … 1
Ⅰ 中村「共同体の歴史」と宇野「経済原則」
宇野弘蔵先生と中村吉治先生/中村『日本社会史(新版)の主題、共同体の歴史/中村「共同体の歴史」と宇野「経済原則」/補論:一律性と地域の相互関係
… 16
Ⅱ「共同体の歴史」にみる家と村
古代の「村」、氏・郷戸・公領としての名/中世の「村」、名と在家/画期としての行政村
… 21
Ⅲ 常陸・下野にみる初期の近世村
「戦国期東国の土豪層と村落」からみる近世の村/常陸南部の入会地紛争にみる成立期の近世村/慶長7年「小坂村御縄打水帳」から元禄7年「小坂村名寄帳」へ/起動力としての百姓林・畑山の開発/歴史性を示す林野開発/初期近世村にみる個人請から村請へ/村請にみる「文書主義」の村/伝統の虚構化と制度化・イデオロギーの登場
… 24
Ⅳ 近代の家・村落研究と中村「社会史」
我孫子「家—媒介環—村落」と「機能に応じた三曲面構造」/経済法則と家族的農業経営/経済法則に対する農家自給部分/商品経済・市場原理のフィルター
… 45
Ⅴ 経済法則に形式的に包摂される農民経営
米価賃金から離脱する農雇/貨幣化する農民の生産と生活/農民家族の職業遍歴・労働環境
… 49
Ⅵ 多子化する嫡流二世代血縁家族の農民経営
複合の家が残る明治初年の農民経営/通婚圏と嫁入・婿入相手の続柄/増加した明治の農家人口/多子化する嫡流二世代血縁家族の農民経営/白川村「大家族」の動向からも
… 53
Ⅶ 顔の見える農民像を
栗原の「勤労主義的な自営小農」/家族的農業経営の農民像/桜井の農本主義論にみる老農
… 58
Ⅷ 聞きがたりの地域史と農民の顔
非典型地域と農民経営の視点/聞きがたりの地域史/勤労農民・精農・商品化する普通作物・特有農産物もまた
… 63
Ⅸ 経済法則に実質的に包摂される農民経営
歴史的存在としての勤労農民経営・労働市場と農民経営/勤労農民経営/経済法則に実質的に包摂される農民経営/勤労農民経営の教育環境
… 68
Ⅹ 村落初期における経済学からのアプローチ
農地改革と村落からはじまって/「農地改革と農民運動」を経て「過剰人口と小農経営へ」
… 71
Ⅺ 過疎から環境へ、経済原則と対立する経済法則
農村過剰人口論を超えて/村落概念の整理を求めて/兼業化と農村の都市化、そして過疎
… 74
Ⅻ 家族的農業経営と環境問題
至上主義の時代のなかで/村研とグリーンツーリズム/EC移行にとって障壁となった農業問題/市場政策・価格政策を主体としたEC共通農業政策/地域格差問題の浮上/農業に対する直接的補助、環境と過疎を媒介として/「家族農場主体の欧州型農場の維持」/非市場価値の価値化と地域の創造
… 78
XⅢ 近世村は維新のなかで
「徒百姓」の村から/大小区制下の村業務/混乱する旧藩制村の位置づけ/旧藩制村は有用にして「危険」/人民と公民、消された人民総代
… 88
XⅣ 町村制行政村の「自治」と「分権」
村は分任業務と教育費で/歳入増加は村税戸数割で/村が直面した財政問題/村役場の職員/町村制行政村の「自治」と「分権」
… 94
XV 政府の住民把握と大字
消された部落の住民組織/常設委員/若者連と青年会/消防組/農会/産業組合
… 98

経済学から「家と村の教育問題」を語る

Ⅰ 「家と村の教育問題」、その視点
「家と村の教育問題」、その視点/手習所・寺子屋教育は近世村を超えて
… 1
Ⅱ 小学校は家塾から
明治維新と村の教育/小学校は家塾から出発した/家塾・学舎時代の教育現場は/家塾・学舎は村のリーダーに支えられて
… 3
Ⅲ 村の小学校は明治10年代を経て
村に起こった小学校建設の機運/明治10年代初頭の就学状況/インフレ活況の農家/卒業試験優等生は村の誇るべき人物
… 8
Ⅳ 整理統合される村の小学校
県が主導する学区改編を通して整理統合へ/小学校は全国一律の義務教育を制度化した
… 12
Ⅴ 小学校と実業教育
小学簡易科から高等小学専修科・補習科、そして徒弟学校・実業補修学校/文部省令の実業補修学校規程から勅令の実業学校令へ/実業学校令に基づく文部省令の農業学校規程、岡田村の農学校/小学校の補修科も持続した、奥野村の農業補修学校
… 15
Ⅵ 国の小学校整理統合政策と村の小学校
家塾系譜の小学校を守り立てた岡田村/奥野村の小学校令以前は家塾系譜の小学校だった/整理統合路線を選び、就学拒否、軌道修正した奥野村
… 16
Ⅶ 村の小学校整備と歴史的背景、奥野村の場合
大庄屋系譜の村長と明治の奥野村/小学校立地問題に揺れた奥野村
… 19
Ⅷ 明治生れの教育環境
若者を育てた農事巡回教師/農事講習所の教育/農事講習所の開催状況/村の農談会も巡回教師の出席を得て
… 21
Ⅸ 村のリーダーとなった農事講習所卒業生と岡田村の教育方針
岡田村の小学校、農学校を支えた人たち/明治40年小学校令に尋常小学校四校体制と村立農学校を以て対応した岡田村/開拓地の小学校、村立女化尋常小学校への道/農学校にかけた岡田村
… 24
Ⅹ 岡田村立農学校の制度的背景
農学校のルーツとしての農事講習所と簡易学校/実業学校令に基づく甲乙二種の農学校
… 30
Ⅺ 岡田村の教育と藩制村のリーダー像
下根小学校をつくった池田金左衛門/旗本知行村と村役たち/下根村の名主池田金左衛門
… 31
Ⅻ 村の財政からみた教育問題
旧村系譜の大字と教育行政/民費に頼った学校経費/変化はじまる発足当初の行政村教育費/増大する教育費は村税戸数割によって/明治43年1期奥野村の県税戸数割/激増する教育費歳出/大正から昭和初期にも続く重い教育費
… 35
Ⅷ 小学校と村と大字そして学校区との関わり
小学校と村、大字、学校区との多面的な関係/小学校教師と赤痢の予防/柏田尋常小学校の同窓会/「区域人民」「学区人民」による小学校援助/下根校増築・修繕工事にみる村と学校そして学区・大字の関係/岡田村学校職員打合せ会の発足/学校は青年会とも連携して
… 41
XⅣ 村内中央一校お方針と久野校舎取り壊しに揺れる奥野村
村の小学校問題は変わっても/村内中央一校の方針と久野校舎取り壊し・奥原分校廃止/明治後半期、奥野村と岡田村の語ること
… 49
XⅤ 小学校、村立農学校が直面した明治末以降の社会・経済・制度的環境
経済法則による農民経営の実質的包摂と関連させて/戸数急増の明治30年代、しかも維持された一戸平均人口/激増する畑地と農家、経営耕地の規模別動向が示す事実/栗原百寿『日本農業の基礎構造』にみる農家戸数の動向/小農層の動向は一般的/普及する義務教育と高小進学、中学、高女、実業学校へも/初等、中等実業教育の制度的背景/奥野・牛久・岡田村、初等実業教育はそれぞれの道を
… 52
VⅥ 村立農学校の帰趨にみる「家と村の教育問題」
卒業生が語る大正時代の村立岡田農学校/選択を迫られた岡田農学校
… 61
XⅦ 別の道を辿った二つの農学校
岡田村立農業実修学校は通年制一部、季節制二部のほか高等科をおいた/カリキュラムが語る岡田村の農業教育/岡田村農学校教育の前史を振り返る/岡田村の農学校長橋場兼吉/存続できなかった奥野村の農学校/岡田村と奥野村の農学校が示すことは
… 64
XⅧ 農民の語りから教育をみる
進路に思い悩んだ若き日の勤労農民/「出稼ぎは大嫌い…で…他人は雇わない主義」と言う市村彪/「一家経済の基調を自給自足…勤倹を旨」とした大久保忠次/家格を否定して「大正ノ農民」を主張した吉川開/大正14年、青年たちに推され村会議員に立候補した横須賀勘衛門/若き「手伝い人」も新聞を貪り読んだ/6人の農民が語ることは/家と村の教育問題、その位相も変わる
… 74
XⅨ 村の小学校教師が語る普通教育の理念
高橋煕校長、牛久尋常高等小学校で「体験教育」をはじめる/国語教師高野朋之助「私の綴方観」/大正11年3月、牛久尋常高等小学校を卒業した女子児童は
… 83
あとがき … 88

経済学から「戦時下の村」を語る

あらまし … 1
Ⅰ「語り」の始点と視点
地主小作関係(地主資本家関係)・土地管理主体・村落一部落一集落、の段階と階梯/大正期末庄内農村、動揺する部落構造と部落秩序/豊原研究会『豊原村』からみるこの時期の自小作・小作大経営/実権を掌握した自小作大規模経営層/争議の相手、「小商品生産者として営利を求める小作上層」/争議の担手が直面した事態/小作争議は小作農有力者層を部落運営の中心に/農民的生産力担当層としての精農、在村耕作地主・自作富農層出自の篤農/牛久村の農民も、大正13年、米麦共同販売を拡大/庄内における「農民的流通機構確立運動」
… 3
Ⅱ 農民における共同意識の形成と組織化
国家政策としての耕作者農民の組織化/大正12年、全戸加入・会費強制徴収となった農会は農業共同経営を政策化した/大正12年農会法を系統農会と産業組合の歴史からみると/勤労農民たちの農村改良劇「栄ゆく村」/「家と村」を振り返ると/明治末期に集中した潰れ家
… 17
Ⅲ 茨城県における専売制下葉煙草耕作農民の組織化
葉煙草耕作農民組織化の視点/葉たばこ生産は明治30年代に激増し大正末期にピーク/葉煙草専売法施行直後の耕作農家組織化/主要産地の連合組織は同業組合/専売局は、大正5年以降、町村耕作組合を煙草収納区域ごとに組織/専売局が意識した水府煙草生産同業組合の活動/昭和初年、専売局は煙草耕作改良実行団を組織/水府煙草生産同業組合傘下、金砂村の煙草耕作改良団は大字規模/水府煙草耕作者購買組合を立ち上げた水府煙草生産同業組合/茨城の葉煙草生産農民組織化が示すこと
… 31
IV それぞれの道を辿った産業組合
昭和7年の茨城県内産業組合数は381市町村に対して236/同じ地域の隣接する村々でも大正・昭和初期の産業組合は違った
… 46
V 優れたリーダーの率いた牛久村の産業組合
前史をもつ牛久村の産業組合/預貯金は増大し大正8年以降横這い、大正14年増加/農業倉庫業は産業組合の業務を拡大/大正後期にかけての販売拡大と購買多様化/大正9年以降の経済停滞と「品代未収入金及貸付金ノ固定」化/貸付金、貸付件数、一件当金額、いずれも増加/牛久産業組合は無担保貸付を通して農民の生活規範をも示した/牛久産業組合員は繭の特約関係も
… 48
VI 明治末から大正期、旧勝田市域にみる産業組合
明治未・大正初年設立のハつの産業組合/大正・昭和初年旧勝田市域産業組合の二類型/優れたリーダー、組織、販売を基礎にした東石川産業組合
… 55
Ⅶ 農事改良の中心地中野村と安資農夫
明治15年、27歳の安助之允は資農夫を名乗った/安資農夫「農家経営法一戸是」/歴史とリーダーも、応える農民があってこそ
… 57
Ⅷ 若き農民たちのみた産業組合
経営を維持できない産業組合/「みんな経済が下手」な勝倉産業組合/若者を励ました打越信太郎/貸付事業に重点をおいた勝倉産業組合/平野信のみた田彦産業組合/農業観を育てる農民たち
… 59
Ⅸ 産業組合と「農事実行組合
農事実行組合などの産業組合への加入/「異名同質」な農事実行組合/あらためて農家組合を流れのなかにおくと/大正12年、県農会の共同化方針/経済更生計画樹立機関としての町村経済更生委員会/村の組織化、もう一つの視点
… 61
Ⅹ 農山漁村経済更生計画と産業組合
昭和7年7月10日「農村救済並更生対策」草稿/昭和7年12月2日「農山漁村経済更生計画樹立方針」
… 69
Ⅺ 政策所産としての奥野村の産業組
昭和7年産業組合法改正の地点にあって/遅れた奥野村/政策所産としての奥野村の産業組合/奥野村産業組合の組合員は村長など10名
… 70
Ⅻ 速成された「新設組合
速成された「新設組合」/当事者たちが語る「新設組合」
… 72
ⅩⅢ 奥野村は匡救農土木事業から経済更生実行村、経済更生特別助成村へ
経済更生特別助成村となった奥野村/時局匡救救農土木事業の起債に苦しむ岡田村
… 74
ⅩⅣ 農民経営の経済法則への包摂との関連
経済法則の基盤としての通貨制度、昭和初年その局面/語りの流れで実行組合をみる
… 75
ⅩⅤ 戦時下の産業組合を担った青年職員
昭和13年、24歳の農民吉田新一は産業組合職員となった/先立つ時期、吉田青年の思い
… 77
ⅩⅥ戦時経済体制への移行
近衛内閣賀谷大蔵大臣の演説に読む経済体制/国家総動員法、無修正で承認
… 80
ⅩⅦ 戦時経済初期インフレ期の奥野村産業組合
激増した奥野村産業組合の組合員/不況からの脱出
… 82
ⅩⅧ 村民が実感した景気動向
「希有の大収入」「此後またと得難き事」/肯定された初期インフレ、「都会人資本主義黄金万能の士よ思い知れ」
… 83
ⅩⅨ物資の不足、配給と統制
部落割当の肥料配給/悪化する配給事情/昭和15年、村民の販売・購買心理は変化/進む統制経済/「新体制‥数日で我が帝国の組織機構はガラリと変る」
… 85
ⅩⅩ 奥野村産業組合の資金は国債や時局有価証券に
肥料購買は昭和15年に激増/激増した奥野村産業組合の米穀・麦類販売/米穀・麦類販売代金は組合から系統上部に集中/時局匡救救農土木事業の起債に苦しむ岡田村
… 88
ⅩⅪ 経済更生特別助成村初期の奥野村産業組合
奥野村産業組合そのものが「更生」の対象/昭和13年度未、奥野村産業組合の出資金払込は14パーセント/資金運用に未熟な奥野村産業組合
… 91
ⅩⅫ 低迷から脱却した奥野村産業組合、その具体相と村の組織化
農事実行組合増設/画期としての「肥料の一元配給と大小麦の一元集荷」/開墾地畑作農家と「肥料の一元配給と大小麦の一元集荷」/配給品の受給主体は部落団体/配給と分配の風景/産業組合事業計画でも重視された農事実行組合/昭和16年、本城家5、6月の農繁期/牛久村牛久、倉持家にみる農作業での他人労働
… 94
XXⅢ 産業組合と常会
昭和15年10月、活発化した常会活動/常会の停滞と活発化/揺れた部落農業団体の位置づけ/農業の組織化・村の統制、戦時下最終局面の意味すること
… 100